下水道施設への地震被害とその復旧

 

1.概要

下水道施設が被害を受ける地震が1993年の釧路沖地震以降頻発した。特に、19951月の兵庫県南部地震、200410月の新潟県中越地震では下水道施設は非常に大きな被害を受け、処理施設の運転停止のほか、管きょに大きなダメージを受けた。兵庫県南部地震と新潟県中越地震では住民が長期間にわたって避難生活を強いられるほどの被害が住宅や社会インフラに対してあった。この2つの地震では、下水道施設が処理不能になる被害を受け、汚水が公共用水域へ直接垂れ流しになる状況に陥った。本報告では@2つの地震による被害の特徴、A処理不能の施設を回復するまでの措置、B地震被害に対する機能回復までの支援の方法、及びCトイレ問題について述べる。

 

2.兵庫県南部地震と新潟県中越地震の地震規模と被害状況

兵庫県南部地震は1995117日早朝に発生し地震規模マグニチュード7.2、最大震度7であった。死者6,308人、負傷者43,177人、全壊した住宅数100,302棟という非常に大きな被害を与えた地震であった。この地震による下水道施設の被害は8処理場が処理機能に影響が出る被害を受け、43処理場で何らかの被害を受けた。また56ポンプ場で被災、管路被害延長162kmであった。

 

新潟県中越地震は20041023日夕方に発生し地震規模マグニチュード6.8、最大震度7、死者59人、負傷者4,805人、全壊した住宅数3,175棟という被害を出した。この地震により山崩れや土砂崩れなどで鉄道・道路がいたるところで分断された。2004年は、7月13日に新潟県地方で大規模な水害が起こり、また夏から秋にかけて台風が過去最多の10個上陸するという、例年にない多雨に見舞われた年であった。このため、元々地滑りの発生しやすい地形であったところに、降雨によって地盤が緩み、さらに地震が発生したために、多くの土砂崩れが生じたと考えられている。下水道以外については電気ガス水道電話携帯電話インターネットなどのライフラインが破壊されたほか、新潟県への電話が集中したため、交換機輻輳し、発信規制がかけられた。また、山間部へ続く通信ケーブルや、その迂回路も破壊され、外部からの情報にも孤立する自治体が出た。携帯電話については、震源地周辺では中継局の設備損壊や停電などがあり、中継局の機能維持のために非常用として蓄電されていた予備のバッテリーも、通話の集中によって1日余りで使い果たされてしまうなどした。このため、中継局そのものの機能が停止し、通話不能となるなど、広範囲で使用不能となった。

 

この地震による下水道施設の被害は1処理場が処理不能になり、6処理場で被害を受けた。また6ポンプ場で被災し、2ポンプ場で送水機能に障害が発生した。管路施設の被害は152.1kmにのぼり、マンホール2506箇所に問題が生じた。

 

管理施設の被害は、兵庫県南部地震と新潟県中越地震とで大きく傾向が異なった。兵庫県南部地震では、地盤の永久ひずみによる管きょのずれ、地震動に起因するクラックなどが主たるものであった。

 

一方、新潟県中越地震では管きょの埋め戻し土の液状化による管きょ・マンホールの浮き上がりによる被害が多くを占めた。またマンホールの浮上により交通障害が生じた。この管きょ被害により各住宅から下水道へ排水することが困難となり、下水道そのものが使えない状態を生じさせた。

写真1 浮上したマンホール

 

1は新潟県中越地震における都市ごとの最大震度と管きょの被害延長率である。表1だけではわかりにくいが、同じ震度の属する管きょ延長と被害延長をそれぞれ合計して被害率を出すと図1のようになり、震度6強以上で大きな被害率となっていることがわかる。

 

1震度と管きょの被害率(新潟県中越地震)

Managing Autholity

Intensity

Sewer length km

Damaged length km

Damager rate %

Nigata-ken City

 

58.2

0.51

0.9

Kasiwazaki City

5-

421.7

3.85

0.9

Yahiko Villege

5-

100.2

0.02

0.0

Nisiyama Town

5-

25.8

0.29

1.1

Mituke City

5+

195.0

0.23

0.1

Tunami Town

5+

59.0

1.47

2.5

Yoita Town

5+

56.0

5.07

9.1

Izumosaki Town

5+

39.6

3.14

7.9

Wazima Villege

5+

37.7

6.06

16.1

Nakanosima Town

5+

33.3

0.03

0.1

Nagaoka City

6-

1257.8

62.88

5.0

Uonuma City

6-

212.2

4.33

2.0

Tookamachi City

6-

202.6

2.85

1.4

Tochio City

6-

135.1

2.52

1.9

Kosizi Town

6-

83.7

4.68

5.6

Misima Town

6-

58.7

1.77

3.0

Kawanishi Town

6-

29.3

2.37

8.1

Oziya City

6+

182.9

31.13

17.0

Oguni Town

6+

61.3

9.61

15.7

Kawaguchi Town

7

43.0

9.33

21.7

Total

 

3234.9

151.63

4.7

 

 図1 最大震度と被害率(新潟県中越地震)

 

 

3.被害復旧

兵庫県南部地震では、被害を受けた都市の中でもっとも大きな都市である神戸市では、下水道局の入っているビルが半壊し復旧業務を主要なデータなしでおこなわなければならなかった。そのため、電子化された下水道台帳も当初は使うことができず複雑な管きょ網も破損の報告があってもどこまで影響するのかさえ把握できない状態であった。下水道台帳のデータはコンサルタントが元データのコピーを保管しており、また名古屋市が同じステムを採用していたため、名古屋市のシステムを使って必要なデータを印刷して復旧に使用することができた。

 

地震により被害を受けても下水道施設はすばやく復旧しライフラインとしての使命を果たさなければならない。しかしながら被害箇所の把握すら容易でないのが下水道施設である。処理施設は目視により被害状況を確認できるものが多いが、管きょは内部を点検しないとその被害を受けていることすらわからないのが原状である。被害状況を把握して、その対策を考えることがまずは必要なアクションである。そのためには担当職員をどの程度確保できるかが重要になる。兵庫県南部地震は、きわめて被害の大きな地震であったために職員の参集も容易ではなかった。実際の参集状況は表2のとおりである。

 

表2 兵庫県南部地震直後の下水道関係職員参集状況

City name

Staff number

within 1 hour

Within 6 hours

Within 12hours

Within 24 hours

Within 3 days

Koube

-

-

 

-

 

-

 

-

 

-

 

Ashiya

65

9

14%

23

35%

25

38%

27

42%

35

54%

Nishinimoya

191

-

 

-

 

-

 

124

65%

176

92%

Takarazuka

70

2

3%

50

71%

51

73%

52

74%

66

94%

Amagasaki

234

3

1%

74

32%

84

36%

84

36%

102

44%

Kawanishi

66

-

 

57

86%

-

 

-

 

-

 

Itami

54

41

76%

41

76%

41

76%

47

87%

49

91%

Akashi

147

5

3%

117

80%

123

84%

123

84%

142

97%

Toyonaka

127

5

4%

84

66%

90

71%

90

71%

124

98%

 

神戸市の東灘処理場は非常に大きな被害を受け、ポンプ施設から処理施設への送水が不能になるほか、処理施設本体に受けた被害の為、処理そのものが不可能になってしまった。その他の処理施設も被害を受けたが、処理場の対策としては特に東灘処理場の機能停止に対してどのように対応策を講じるかが極めて重要問題となった。この処理場ではポンプ施設から処理施設を結ぶルートが運河を横断していたが、その運河を締め切り、暫定的な沈殿池として機能させ周辺水域に深刻な水質被害を生じさせないような対策が講じられた。このような対策を講じている期間は100日間に及んだ。処理施設本体の被害は、埋立地における地盤の液状化により側方流動が生じて、杭が破壊されたことなどが主要な原因であった。この原因追求にもかなり手間と時間がかかったが、その結果を受けて施設の復旧策が講じられた。

 

新潟県中越地震では新潟県の流域下水道の堀之内処理場では機能停止に陥り、流入してくる汚水が周辺に溢れている状態であった。その原因は流入部の破断にあったが、処理施設そのものも甚大な被害を受けていた。暫定の措置として、仮設の沈殿池と消毒施設が設置され、汚水の未処理流出を防いだ。

 

4.支援問題

兵庫県南部地震では、甚大な被害を受けた地域に対して、大都市が中心となって復旧への活動を支援した。この経験から基本的な取り決めをおこなっておく必要性が認識され、「下水道事業における災害支援に関するルール」が、(社)下水道協会によりまとめられた。これを基本として、全国6ブロックごとにわけて支援をおこなう体制がその後できた。また政令指定都市においては別に政令都市間の相互支援ルールを定めた。

 

その後発生した新潟県中越地震では、このルールに基づくと被害を受けた自治体が支援を要請した場合、支援者の旅費・超過勤務手当等の一定の費用負担が発生することになっており、負担の発生を懸念した被災団体からの支援要請が遅れる要因となったことが判明した。現実には、支援したほうが負担することに急遽ルール変更を行い、ようやく広範な支援が実現した。このような経験を踏まえて、現在支援ルールの見直しが進んでいる。

 

現在の支援の方法は、まず被災自治体はブロック内の支援を要請し、ブロックごとに対応を図ることとしている。ブロック内だけでの対応が困難な場合には、該当ブロックは国に支援を要請し、支援依頼を受けた国は、国土交通省に「連携下水道対策本部」を設置し、国総研、下水道事業団、政令都市、関連業界などと連携を図り、被災都市の支援をおこなうものとなっている。

 

5.トイレ問題

地震被害を受けた場合にすぐに問題になるのが、トイレが使用できるか否かである。避難所に多数の人が集まった場合には既存のトイレが正常に使用できない場合には悲惨な状態となる。トイレが使えないとはトイレに流す水が確保できない場合、下水道が被害を受けてトイレに排泄したものが流れない場合等である。このような場合には仮設トイレが設置されるが、仮設トイレが十分な数確保されないと衛生的に大きな問題を生じると同時に災害で被害を受けた住民にさらに心身に大きな負担をかけることになる。

 

兵庫県南部地震では、家屋の倒壊・消失にあった人、電気や水道等の供給を受けられない人、余震が不安で自宅にいることができない人などが、避難所に集まってきた。最もピークになったのは地震発生から6日目の1995年1月23日であり、避難所数1,153箇所、避難者数316,678人に達したと記録されている。避難所は学校・体育館・公園などが使われた。このような公的施設にはトイレは設置されているが避難者収容を前提にトイレの数が設定されていない上に、水洗トイレに流す水が確保できず、数回の使用でたちまち使用不能になった。しかしながら排泄欲求はとめることができないので、おびただしい量の排泄物がトイレ内を埋め尽くしたと記録されている。

 

仮設トイレは地震の翌日の1月18日から設置が開始され、19日はその数はわずかに230基と十分な数が確保できなかった。1月24日の調査では仮設トイレの設置が完了したのは、必要箇所の45%の2,488箇所にしか過ぎず依然として問題を残したままだった。その後、工事現場用の仮設トイレの移設などがおこなわれ、避難所では60人に1基の数が確保できた。ただし、被災地域に入る道路は大渋滞が続き、外部からの仮設トイレの搬入も容易でなかった。公園や学校の運動場には、地面に穴を掘り急場のトイレとして使われていたが、数日で使用できなくなっていった。災害時には水と食料は大事と思われていたが、それ以上に重要なのが清潔な排泄場所の確保であった。その後、様々な臨時トイレが作られたが下水道のマンホールを利用したトイレが、好評であった。

 

兵庫県南部地震の経験を踏まえて、災害時のし尿対策として次のような考え方がまとめられた。第一優先としては、水洗トイレが使用できるように事前に対策を講じておくこと。水洗トイレが使用できるまでの代替案を確保しておくことである。水洗トイレが使用できるために必要な措置としては、トイレ用水の確保であるが、避難所でプールの水の確保、下水処理水の利用、貯留雨水の利用、海・湖沼・河川等からの水の搬送があげられ、一方で避難所への給水施設と排水施設の耐震化が事前対策として必要になる。

 

仮設トイレは、従来型のものを一定の数を確保すると同時に、下水道施設を利用した新しい仮設トイレが本格的に震災対策として次々と準備されている。下水道施設利用の仮設トイレとマンホールを容易にトイレ等に転用できるように、特殊なマンホール蓋を導入するとともに、公園等避難場所となるところにマンホールと蓋を設置し災害時にすぐに利用できるように準備しておくものである。

 

新潟県中越地震では、幸いにして比較的早い時期に仮設トイレは十分な台数が建設業会の協力等で確保でき大きな問題とはならなかった。しかし仮設トイレの撤収等に問題をのこしたという報告がある。

 

6.まとめ

地震による下水道施設の被害はトイレ問題と結びつき、震災後直ちに大きな問題となる。最近10年間に大きな地震被害を経験し、被害の特徴、復旧方法、周りからの支援方法、トイレ対策等に知見と経験を重ねてきた。いまだ万全ではないが、これらの経験を通して下水道の地震対策は進みつつある。今後、東京都を襲う大規模な地震も予測されており、耐震強化と震災後の対策の技術の進展を図る必要がある。

(以上)