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「ITとスポーツ・体育を考える」*1

1.はじめに

数年前,教育関係のホームページのコンテストがあった.そのなかで,数学や理科の受賞はあったが,体育のページには受賞に該当するものがないと書かれていた.その時,スポーツの指導には,動画やアニメーションなどが一番向いているはずなのに,おもしろいページがないということどういうことだろうと残念に思った.

現在,スポーツ関係のホームページは少しずつ増加してきているし,スポーツ専門のサイトも立ち上がってきた.また,今はITが声高くさけばれている時でもある.コンピュータやネットワークを利用して,今までは出来なかったことをする,今まで出来なかった教育をすることは非常に重要なことだと思う.それを私の専門のスポーツの分野で考えてみたい.

スポーツに関わる情報が,どういうところで最新のコンピュータ技術とかかわるだろうか.それをまずあげてみる.

2.スポーツと最新のコンピュータ技術

2.1スポーツの情報は動画を必要とする

スポーツの技術指導をする時に,文章だけでは伝わらない情報が多くある.1つは,時間的な情報である.この時間情報があれば,速度の情報,また加速度の情報も伝えられる.加速度がわかれば力の入れ方の情報も伝わる.分解写真をみても動きを覚えられないのは,動作の形だけで時間情報がないからである.例えば,スキーのウェーデルンの分解写真を見ても,なかなかその動きのイメージがつかめないことなどを思い出していただければわかるであろう.

コンピュータは,最近になって,動画をかなり簡便に扱えるようになった.そして,ネットワークも高速になってきて,動画のやりとりも自由にできるという時代になってきた.動画は時間情報を正確に伝えることができるのメディアである.まさに,スポーツの技術指導の道具として,コンピュータが利用できる時代になったのである.

2.2スポーツの情報はマルチメディア

スポーツでは,同時にいろいろな状況を把握して判断しなければいけない場面が多くある.このような状況は,文字で説明することは難しく,映像や静止画というメディアが役ににたつ.

また,単なる撮影した映像だけでなく,その映像に他の情報を付加することによって,より映像による指導の効果を高めることも可能である.例えば,測定した力のデータも,数値より,その映像と同期させてベクトルで表示すれば,多くの情報をわかりやすく表示して使うことができる.そういう意味で,スポーツ情報のインターフェイスは,マルチメディアでなくてはいけない最たるものの1つである.

2.3スポーツの情報はグローバル

スポーツに関する情報は,大学だけで利用するものではなく,広い世代,多くの人が興味あるデータである.そういう意味で,コンテンツにたいする要望は大きい.インターネットは,まさにそういうスポーツの情報をのせるのに最適なメディアといえる.

3.スポーツ情報での問題点

上述のように,スポーツ情報は,現在のコンピュータ,ネットワークが発達しつつある分野に対応しながら発展しているといえる.しかし,コンピュータやネットワークがほんとにスポーツに適した発展をしているかというと,まだ多くの問題があると思う.そして,それらの問題は,これから,体育・スポーツの分野で解決していかなければいけないものばかりである.

3.1スポーツのためのフォーマットがない

コンピュータで動画を扱うために,MPEGなどの圧縮方法の規格化がおこなわれている.しかし,現在までの規格は映画などをみることをベースにしているので,スポーツの指導に最適とはいえない問題がある.例えば,スポーツの場合,画面のきめ細かさよりは,時間情報が正確に伝わることが重要になる.極端な話,色は白黒でも時間情報がちゃんと伝わった方が情報としては有益なのである.情報の重要度が変われば圧縮の方法もことなる.映像のデータをいかに圧縮するかということは,高速ネットワークでも重要である.そして,スポーツ映像に関して,どのような圧縮が最適かについて,スポーツの分野からの提案と研究が必要である.

また,映像以外にも,いろいろな表現をもつスポーツ情報のデータを,共通化したフォーマットで記述できるようにする必要がある.そうすれば,スポーツ情報が流通し,検索が可能になる.この共通化の枠組み作りもこれからのスポーツ情報の研究として必要になるであろう.

3.2スポーツ映像に必要なタグ情報の整備

スポーツでは,映像からいろいろな情報を検索する必要がある.例えば,昨年のJリーグの公式戦での誰々の左からのシュートの映像が欲しいといえば,即座にその映像が集まるような仕組みである.今までも,スポーツ競技団体から研究者のレベルまで,膨大な数の映像が記録されたままになっている.映像は,コンピュータ上に記録されるようになってきたが,それを検索するシステムがなければ,探すことができない.検索のためにどのようなタグが必要か,あるシーンの情報をどうやって構造化するかということは,各スポーツ競技で考えていかなくてはいけない問題である.

3.3スポーツ情報とはインターフェイスの研究

スポーツ情報は,結局,人間の目に触れて理解されてはじめて役立つ.その時,どういう情報をどのように示すかという,インターフェイスが重要になる.それは,ちょうどある運動をコーチングする時,情報をいかに選手に伝えるかというコーチのノウハウが重要であるのと同じことである.このインターフェイスに対して,コーチングの立場から,どういう表現が効果的であるかなどの研究が必要である.

4.教育システムの整備

スポーツ情報は広い分野の内容である.簡単なところでは,ビデオカメラを使ってどうやって,スポーツ向きの映像をつくるかというところから,それを加工し,いかに表現するか,例えばホームページ上にのせるか,というようなさまざまなことをやる必要がある.

現在,スポーツ関係のホームページは,まだまだ不足していて,役立つものが少ない.それは,上記の基本的な技術とを身につけて卒業していく学生が少ないからである.いろいろな人に役立つスポーツ情報のコンテンツを増やし豊かなものにするためには,スポーツをよく知っていて,また,基本的な情報技術の知識のある人間がおおく育つ必要がある.そういう意味での,スポーツ情報の技術と表現のノウハウをもった学生を育てる教育システムの確立が望まれる.

また,大学では,一歩すすんだスポーツ情報の表現や,可能性を追求し,それを学生に示したり,授業に利用していくことで,学生の情報にたいする目も養われていくと思う.これには,体育だけではなく,情報,芸術など幅広い分野の教官が集まって教材を検討する必要がある.


*1 つくばフォーラムより 58:p65-68, 2001

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