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ウィンダミア湖にて*1

今年の7月はじめ, インターナショナル・マセマティカ・シンポジウムがイギリスのサウザンプトンであり,その会議への出席が決まったので,家族を連れての旅行を計画した.どうせなら,なにか経験できないようなことを1つやってみようと思い,集中授業でヨットの担当をしていることもあり,「イギリスでヨットに乗ってみる」ということを旅行のメインにすえた.海で乗るにはかなりの経験も必要であるし危険も多いが,湖なら大丈夫だろうとウインダミア湖を選んだ.

ウインダミア湖とは

ウインダミアは,イギリスの中西部にある静かなリゾート地である.旅行の解説書などには,「富士五湖と蓼科と軽井沢をあわせたような保養地」などと説明がしてある.湖水地方という名前の方が通っているかもしれない.もっと有名どころなら「あの,ピータラビットの故郷」である.そのなかのひときわ大きな湖が,ウインダミア湖である.

出発

まずは,はじめの訪問地,サウザンプトンで数日間仕事を済ませ,それから楽しい旅行のはじまりである.列車でウインダミアまで丸1日かかる.さすが蒸気機関車の発祥の地,鉄道はとても発達していて,きれいで乗りごごちも上々,まわりの景色を楽しみながらの旅ができる.一面は丘とひつじの群ればかり,それも大都会をはなれて30分のすれば,そういう田園風景一色になる.

途中,小さい川というか運河に川幅いっぱいに船が浮かんでいた.不思議に思って尋ねてみたら,カナルボートというものだそうである.その船に乗ってひがな一日川をのぼったりくだったりしながら,水遊びや釣をし,午後は岸にあるホテルでお茶を飲んだり,夜は素敵な宿に泊まって楽しむというものだそうだ.なんか,隅田川の屋形船で神田川の上流までのぼっていっているような印象である.イギリスは川も少ないので,こんなところでも遊びを考えるのだな,と感心し半ばあきれてしまった.

「イギリスには山はない,あるのは丘ばかり」という悪口があるが,列車に乗って見ると,ほんとに丘ばかりで川も湖もあまりない.ウインダミアに近くなるにつれ,すこし丘のうねりも大きくなって,このあたりがイギリスで一番高い山のある地方という感じがしてくる.ウインダミア駅に到着し,さっそく予約のベッド&ブレックファーストの宿にタクシーで向かった.途中,外に湖がみえてきて気持ちが高まる.

ベッドと朝食つきの宿

イギリスの宿は,高級なホテルからベッド&ブレックファーストという朝食つきの安めの宿まで,いろいろである.我が家は,親子4人が一部屋に泊まれる安い宿ということで予約した.予約してみてわかったことだが,意外と夫婦用の二人部屋はあっても,親子連れ用の部屋は少ないということだ.元々,親子ではこういうところには行かないのかもしれない.宿には二人用の部屋に子供用の二段ベットをしつらえてあった.

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とてもこぎれいにしてあり気持ちのいい部屋で,2段ベッドに子供たちもよろこんでいた.1泊4人で朝食ついて5000円弱,夜は外食だが,それも3000円もあれば全員おなかいっぱいになる.

ウインダミア一日目

翌日は,湖畔を散歩しながら貸ヨットの店を探した.通りはみな旅行客でとてもにぎやかである.犬を連れている人や二人連れなどなど,全体に年配の人が多く,道端で椅子にすわってはのんびりしている人もおおい.夏休みだなと感じさせる雰囲気である.ちょうど隣にすわった老人はギリシャ出身のご夫婦で,「30年バーミンガムでフィッシュ&チップスの店をやっていて,はじめてここにきたよ」といっていた.

湖のまわりのにぎやかな町には,食堂みやげものなどがあり,そのまわりにホテルやベッド&ブレックファーストの宿がある.遠くには,別荘などが点々とあり,まさに湖畔の保養地.湖は縦に細長く,長さ18km,幅は1.6km.すぐ近くの向こう岸はピータラビットのヒルトップ農場のある丘である.

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湖畔には,白鳥も多かった.子供の灰色の白鳥をはじめて見て,娘はよろこんでいた.

湖には,いっぱいヨットが泊めてあった.どれも17-8フィート以上のクルーザが多く,まったく見たことのない船もたくさんある.港のそばの旅行案内で教えてもらった貸ヨットの店に向かった.艇庫には,カヌーからヨット,ボートといろいろあり,単パンのおっさんが仕事をしている.こちらの希望を伝え,家族で安心して一日乗れるヨットというと,それなら小さい16フィートのクルーザがいい,と紹介してくれた.なんと!夢にまでみたクルーザにも初めて乗れるぞ,と小躍りする.その日は,午後半日だけ息子と二人だけで偵察のため借りることにした.

乗船

さっそく服を着替えて午後ハーバーに出向き,いろいろと説明をきく.浅瀬があって岩がでているので赤いブイの内側には行かないこと,風向き,シート類,操作などを一通り教わる.ボートで少し冲に泊めてあるヨットに運んでくれセールを上げたら,「じゃ楽しんで」とさっさと帰ってしまった.あこがれのクルーザには乗ったが,一人で,はじめての場所とヨットなので一瞬途方にくれてしまう.しかし,乗ったからには出発しなくてはと思い,ブイからもやいを離して出発した.息子はヨットなど初めてなので,全部一人でやらないといけない.帰りをどうするかな,と心配しつつの出艇である.

すこし乗ると慣れてきた.大きい分,動きは鈍いが,ヨットなので同じ原理で動いている.それに安定しているので楽に操作できる.よし,これなら大丈夫とだいぶ自信も出てきた.ウインダミア湖は,霞ヶ浦と違い,風が一定ではなく,山によって方向が変わる.それをいろいろ気をつけながら進まなくてはいけない.時には急に横風を受けて傾くこともあり,気をぬけない.ぐるっとひとまわりして,1時間位後に戻ってきた.これなら家族を乗せても大丈夫だろうと一安心.

さいごはブイへの着艇である.これが一番の難関である.船の重さもあるので,どの位で止まるかの予想がなかなかつかない.ちいさいけれどエンジンもあるので,それを使ってみようと,すこしブイの手前で止まるようにして,こんどはエンジンをかけてみた.が風も出てきたのでエンジンはちいさく,あまり前には進みまない.こんなはずではなかったのに,と思いながらのろのろと前進した.なんとかブイの横に来て船首でブイをエイヤとつかんで船にくくりつけた.がエンジンを切るのを忘れていたので,ブイのまわりでくるくるまわりはじめてしまった.あ!,と思いエンジンを切りやっと着艇終了できた.

エンジンつきクルーザは初めてなので,どたばたと大変であった.店の人がボートで迎えに来てくれ陸地に向かった.ボートの中で「エンジンがうまく使えなかった」といったら,「いや,上手にやればエンジンなんかいらないんだぞ」といわれてしまった.

次の日はべたなぎで,朝,店に電話をかけて風がないので予約取消をして,ピータラビットのふるさとめぐりをした.その次の日は雨.

ヨットピクニック

さて,その次の日,いい天気に恵まれ絶好のヨット日和になった.B&Bのおかみさんにお昼の弁当を作ってもらって出発した.すでに下見も済ませてあるのでだいぶ安心である.家族を乗せて一路風上に向かった.湖上から前の日にいったヒルトップ農場への道も見える.

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風も微風で晴天.まわりでも中学生のヨット教室をやっていてミラーディンギーにのっていた.

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お昼のサンドウィッチを食べ,こんどは風下に向かいながら戻った.ほとんど船は傾くような風もなく,安定した走りをした.子供たちは船首にいったり,舵をにぎったりして遊び回っていた.音もせず静かに走る時の気分は最高である.

午後3時すぎハーバに戻ってきて,こんどはエンジンなしでブイの横にすーとつけ,ブイをひろって着艇した.ほっと一安心である.迎えのボートに乗り陸にあがる.

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店のおにいちゃんに「昨日は風下にいくようにいい,今日は風上がいい,と言ったのはなぜだい」と聞いたら,前の日は風が強かったので風下のほうが安全だったが,今日は微風なので風上の南へいくことを勧めたのだ」ということを答えてくれた.ちゃんとプロは考えているのだなと感心した.

おわりに

このヨットでも一日の賃貸料は6000円くらい.それにきちんと整備されている.しっかりししたスタッフもいる.ヨット人口が多いからといえば当然だろうが,うらやましい限りである.ここまで日本のヨット環境を整備するにはどの位の年月が必要なのだろうか.ニッポンチャレンジで浮かれる人もいるが,社会全体でのインフラではまったく比較にならない.

ついに目的のヨットも乗り,あとはロンドンに戻り,飛行機で帰路についた.こんなことも子供にとっては小さいうちの貴重な経験と思い,ウインダミアでなにが楽しかった?ときいたら,「雨の日のプール!」という元気な声が二人から挙がって二の句が継げなかった.旅行もそれなりのいろいろな経験や知識がなければ楽しむことはなかなか難しいと悟った.しかし,心の奥にはヨットの経験もきっとしまわれているんだろう,とも思うのだが.

おまけの絵

これが,はじめてのったクルーザ

ご満悦のポーズ


*1 つくばフォーラム,1995

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