八ヶ岳の怪

中学生のとき、八ヶ岳に昆虫採集に行った。

もちろん、当時も稜線の高山帯は採集禁止だ。しかし、稜線の下に広がる真っ暗な針葉樹林で昆虫採集は禁止されていないのはもちろん、そんな物好きもほとんどいなかった。この暗い針葉樹林は、シベリアやカナダと共通の種類のいる地味だが、当時はまだよく分かっていない地域だった。

 そんなカッコイイ理由ではなく、もしかしたら誰も取ったことのない蛾が取れるかもしれないと思って、ある山小屋の前でキャンプした。朝は標高2800mの稜線まで山に登り、午後は夕立の後、1500m位まで降りて昆虫採集し、また2000mまで登って山小屋の近くに戻り、食事を作って寝る前に山小屋の前で小屋の明かりに集まる蛾を待った。大体、ガラスにとまった蛾を捕るだけだったが、ある晩、蛾が沢山集まってきて、捕りきれなくなってきた。そこで、白いネットを振るって蛾をとっていた。そのうち、山小屋のなかが騒がしくなってきたと思うと、山小屋の主人がドアを開けてこちらを見た。

「どうしました?」と聞くと

「・・・・・虫を捕っているのか」

「まずいですか?」

「いや、そういう訳ではないが・・・」

といって引っ込んだ。

何時もと違ってその日はすぐに明かりが消えて山小屋は寝静まってしまった。あれれ、という感じだった。

その翌日、山小屋の主人と話した。

「昨日はどうだったんですか」

「いやー、まいったよ。週末だったんで客が多かったから、いろいろな話をしていたんだ。遭難者の話とか、恐い話もあるさ。そういう話をしていたら、女の子が悲鳴を上げるんだ。見ろと、山小屋の磨りガラス向こうに白い物がスー、スーと通るじゃないか。さすがに俺も恐かったよ。意を決して開けてみると、お前が蛾を捕っていたというわけだ。怒る訳にもいかず、何といっていいか分からなかったよ。」

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