Brioche ブリオシュ
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃないの」
と無邪気に言い放ったマリー・アントワネットがさしていたのはこのブリオシュのことである.
ブリオッシュは菓子屋に所属するか、パン屋に所属するのか.
実際には菓子屋でもパン屋でも売られているが、どちらかと言えば菓子屋の領分である.どちらが美味しいか.菓子屋のブリオシュである.クロワッサンにも言えることであるが、バターを多く使ったパンは菓子屋の方が美味しい.バターの使いおしみをしないからだ.
1404年に現れた<brioche>ブリオシュという言葉の語源は長い間論争の的だった.
砕くを表す古い言葉、ブリ<bris>と揺すぶるを意味するオシェ<hocher>の二つの言葉から来ていると推定する言語学者の説がある.
また、アレクサンドル・デュマはブリオシュが作られはじめた頃、バターではなく、チーズを使用していたからだと言っている.その名もブリー<Brie>.チーズ通ならずとも知っているカマンベールと並んで有名な白かびチーズの名品である.この地でブリオッシュが初めて作られたと言うのだ.
今日ではブリオシュの言葉の由来は、<broyer> (ブロワイエ、砕く、押しつぶす)のノルマンディーの古い言い方、<brier>(ブリエ)から来ているのではないかと考えられている.この説明はノルマンディー地方のバター産地であるグルネイ<Gourney>やジゾール<Gisors>のブリオシュが昔、有名だっただけににいかにもありそうな話である.
ブリオッシュ・ア・テットが一番イメージしやすいブリオシュの形であるが、様々な形に作られる.大小のブリオシュ・ア・テット(パリジェンヌとも言う)、ブリオシュ・オ・シュクル(ルセット写真参照)、背の高い円筒形のブリオシュ・ムスリーヌ、四角い型で焼かれたブリオシュ・ナンテール、リング型のブリオシュ・クロンヌなどである.
そしてもう一つブリオシュの忘れてはならないのは伝統菓子、地方菓子としての側面である.例えば、1月6日の公現祭(エピファニー)のお菓子ガレット・デ・ロワはフィユタージュ生地にクレーム・ダマンドを詰めたものが日本では良く知られているが、ブリオシュ生地で作られる地方(特にフランス南部)も多い.また、家族のお祝い、守護神のお祭りにブリオシュ生地のお菓子はよく作られる.
非常になじみの深いお菓子なので、<brioche>を使ったフランス語にも歴史を感じさせるものがある.
<avoir de la brioche> で、腹が出ている、太鼓腹.
<brioche> には音楽家たちが使う隠語で「調子はずれ」 転じて 「へま、失策」という意味もある.これは17世紀の末、パリのオペラ座が開設されて間もない頃の話だ.オーケストラで調子はずれの音を出した団員は罰金を払うことになっていた.このお金をためておいて、みんなでブリオシュを買って分けて食べたというのだ.