BUCHE ビュッシュ
ロールケーキの話
ビュッシュ<Buche> 薪 と言えば少しはフランス菓子らしくきこえるが、これは一体本当にフランス菓子であろうか.
日本に土着した洋菓子はたくさんある.金平糖、有平糖に始まり、長崎カステーラ、新しくは菊型で焼いたマドレーヌなども土着菓子と呼んでも良いのではないだろうか.源氏パイなどもパルミエの土着であろう.お菓子の土着現象は日本に限ったことではない.パリブレストはドイツ、オーストリアではカスタードや生クリームやフルーツをたっぷり使ったシュー系の菓子として定着しているし、リンツァートルテや、英国のフルーツケーキはやや趣を変えてフランスで土着している.
ビスキュイ・ルラードはフランスではビュッシュ・ド・ノエルとして多く使われているが、独立したアントルメや、プチガトーとしてあるのを私はほとんど目にしたことがない.家庭菓子の本でもあまりお目にかからない.かたや、日本ではどうかというと、初心者向けの本には必ずと言っていい程紹介されているし、お店でも色々なものを巻き込んで売られている.そして、スーパーのパン売り場には菓子パンと並んで安いロールケーキが必ず売られている.土着化の最たるものとしては、四国、松山の「一六タルト」であろう.生地にゆず風味のあんこを巻き込んだロールケーキである.和菓子と洋菓子のきわどい合体はしばしば見られるが、これなど一つの究極の姿だろう.
思うに、我々日本人はスポンジ系のふんわりが、何が何でも好きなのだ.ここ数年続いているシフォンケーキのブームがそれを証明している.シフォンケーキはその作りやすさ、バリエーションのつけやすさ、食感が人気の秘密であろう.私は個人的にはあの頼り無さは好きになれず、φ21cmのケーキを半分くらいを一度に食べてしまうことができるというのは、美味しさの証ではなく頼り無さ、物足りなさの証だと思っている.いくらでも食べられるお菓子というのは、いくら食べても満足できないお菓子、と言い換えることができるのではないか.
白状すれば、私もスポンジ系のお菓子が好きである.いちごのショートケーキも好きだが、組み合わせとしてはバタークリーム系とかガナシュの方がもっと好きだ.そこでスポンジの美味しさを十分に味わい、かつ好みの少しヘビーなクリームを組み合わせつつ、簡単で本格的な味を楽しめるとなると、何といってもロールケーキなのだ.地味ではあるが、なかなかの優れものである.
生地のバリエーションもバニラ、カフェ、ショコラetc、と自在だし、ナッツ類を加えても良い.また、アーモンドを加えたビスキュイもいいし、ちょっとがんばってジョコンドを使ってみても良い.クリームは、各種風味をつけたクレーム・オ・ブール、ガナシュ、クレーム・ド・マロン、各種コンフィチュール、さらにその組み合わせである.風味も、好きな酒でつけることができる.見かけは皆同じだが、これ程自由にバリエーションがつけられるケーキは少ない.
ロールケーキを笑うものはロールケーキに泣く.
下手に作ると割れるのだ.
たいていの人が言う.どうしたら上手に巻けるのですか、と.どうしても割れてしまうんですけど、と.
みんな誤解しているのだ.割れるのは巻き方が下手なせいだと.
問題は巻き方ではない、生地そのものなのだ.少々乱暴に巻いても割れない弾力のある生地を焼き上げれば絶対に割れないのだ.そのコツは、ンー、今度ゆっくり[Les Biscuits]のところに書いておきましょう.
クリスマスに真面目にビュッシュ・ド・ノエルを作ると色々なクリームが少量ずつあまってしまう.ガナシュが少し、ピンクのバタークリーム、緑のバタークリーム、モカのバタークリームetc.
こういうのをまとめて巻き込んでしまう.あるところを切ればチョコレート、あるところはピンク、というように.