Financiers フィナンシエ
金融家の意を持つこの長方形の小さな焼き菓子は、金の延べ棒の型をあらわしている.1890年刊のピエール・ラカン著「フランス菓子覚書」には、証券取引所の近くのサン・ドゥニ通りに店を構えていた菓子職人ラヌ(Lasnes)の作とある.
『味覚の生理学』の著者、ブリア・サヴァランは金融家(フィナンシエ)についてこう書いている.
グルマンには2通りあり、1つは生まれつき味わいを享楽するのに格好な体の組織に恵まれた「先天的グルマン」(もちろん、自らはこちらに属するとほのめかしている)、もう一つは「職業によるグルマン」である.職業によるグルマンには4つある.金融家、医者、文学者、信心家である.その中で特に金融家(徴税官、金融業者、金持ち)は、グルマンディーズの雄である.もともと、たいして先天的グルマンの素質に恵まれていなかった彼等は、大勢の客に大盤振る舞いできるが、本人の食への欲求たるや微々たるものである(育ちが悪いから、とサヴァランは言いたいらしい).そのほのかな食欲をかきたてるために、料理人は秘術をつくし、腹にもたれず、美味しい料理を作らねばならなかった.そういう贅を尽くした饗宴に列席するのに、由緒ある家柄の方々は躊躇しなかった、というのである.
さて、ガストロノミー(美食学)の世界にはサヴァランと並んでその業績を讃えられる人物がいる.
アレクサンドル=バルタザール=ロラン・グリモ・ド・ラ・レニエールである.
日本ではサヴァランがガストロノーム(美食家)として非常に有名だが、彼こそ、今日へと続くガストロノミーの先駆者である.彼の発行していた『食通年鑑』は現代のミシュランなどの先駆けである.
グリモは1758年三代続く徴税請負官の家に生まれ、母親はオルジュバル公爵の娘、家柄もよかった.家業は継がず、作家であり、弁護士でもあった.グリモはサヴァランのいうところのグルマンの条件をかなり満たしているところが面白い.彼については数々の興味深いエピソードがあり、機会があればどこかに書いてみたい.
お菓子のフィナンシエに話を戻そう.
この焼き菓子もマドレーヌ程ではないにしろ、近年、世間に広く流布している.アーモンド、卵白、砂糖、小麦粉、バターという単純な組み立ての為、さまざまにアレンジされて登場することになる.
この焼き菓子の命は、アーモンドとバターの風味であると考える.しかし、フランスの製菓学校で作ったものと同様のものを日本で作るのはなかなかに難しい.バターの質は醗酵バターの登場により、飛躍的に向上した.しかし、アーモンドは日本ではカリフォルニア産が主流でスペイン産のアーモンドを主に使うフランスとではかなり風味が違う.最近ではかなり風味の良いものが手に入るようになってきたが、まだまだ一般的ではない.
焼き菓子の常として、このお菓子も焼き上がった直後より翌日以降の方が美味しいとされているが、私は焼き上がってやっと冷めたところ、外側がサクッとしていて中身が柔らかい状態が最高だと思う.作る人間にしか味わえない美味である.