Madeleine  マドレーヌ

このあまりに有名な焼き菓子の名前の由来には諸説がある.
 ポーランド王、スタニスラフ・レクチンスキーがコメルシー滞在の折、料理女、マドレーヌ・ポミエが創作したとするもの.アントナン・カレームによる創造とする説.タレイラン(1754〜1838)邸出入りの菓子職人アヴィスの創作という説.もともとフランス、コメルシー地方の伝統菓子であったという説、などなどである.  

 いずれにしろ、この組み立ての単純な焼き菓子は、様々なバリエーションを生む.一時期(今でも見られるが)日本では、平べったい菊型の型を使った、フワフワと柔らかいマドレーヌが店頭でも家庭でも流行した.  
 私のイメージするマドレーヌは、しっかりした食感、溢れるバターの風味だ.  

 私にとってのマドレーヌの原体験は、「神田精養軒」のマドレーヌである.小型の菊型の少し厚手のアルミ箔の中で、まん中がポコンと膨れ上がった小さな焼き菓子である.  
 小学生の頃、叔父が病気の静養の為、実家である私達の家に帰ってきていた.末期の癌であった彼は、喉を通る食べ物が限られており、「神田精養軒」のマドレーヌが、彼の口にすることの出来る数少ない食べ物の一つだったのだ.彼は大量のリンゲル液(彼の妻が看護婦だったので)と、マドレーヌと共に帰郷してきた.そして当然子供だった私達はそのお相伴にあずかった.その美味であったこと.  
 その後、間もなく叔父は東京の病院に何度めかの入院をし、40歳の若さで亡くなった.彼が最後まで口にすることの出来た固形物はミルクに浸した精養軒のマドレーヌだったそうだ.その時から「神田精養軒のマドレーヌ」は私達家族にとって特別な食べ物となった.

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