MILLE-FEUILLE ミル=フイユ

 最高の条件を満たしたミル=フイユを食して、ため息をつかない人はいないだろう.
 きつね色に層になって焼き上がったフイユタ−ジュ生地.間からのぞくクレーム・パティシェール.
軽くフォークをたてる.サクッという軽い音と共に、クリームが少しはみだす.取りあえず口に入れる.フイユタ−ジュ生地の層の一枚一枚の間から、バターの香りが溢れだし、クレーム・パティシェールの甘味と一体となる.

 千枚の葉の名を持つこのお菓子はフランス菓子の古典中の古典、そして名作中の名作である.
 しかし、アントナン・カレーム(1784~1833)やジュール・グッフェ(1807~1877)の時代に作られていたものと現代の我々がイメージするものとはおもむきがずいぶん異なる.丸く焼き上げたフィユタージュ生地にアプリコット、グロゼイユ、りんごなどのジャムをはさみ、これを何枚も重ね、外側をムラングで被い、フランベする.もちろん、カレームはクレーム・フエテ(泡立てた生クリーム)と相性がよいとしているし、グッフェはクレーム・キュイット(今のクレーム・パティシェールのようなもの)をはさんだものも紹介している.だが、19世紀のミル=フイユは概ね、ジャムをはさみ、ムラングで被われていたようだ.
 1938年版のラルース・ガストロノミックになると現代の我々のイメージに近いものがのっている.パリで非常に流行っているとあり、あいだにクレーム・パティシェールやジャムをはさむとある.形も大きく作ったアントルメや現在菓子屋で売られているような形の細長くカットしたもの、上には粉糖をかけたり、フォンダンがけしたものであったりというぐあいだ.だがクレーム・パティシェールはまだまだ現在とは違い、かなりかたそうだ.配合から想像するにカスダード羊羹といったおもむきである.

 以前、MILLE-FEILLE AUX POMMES (ミル=フイユ・オ・ポム)というのを本で見て作ったことがあった.りんごのジャムを間にはさんだもので、写真で見る限りとても美味しそうだった.そして実際、不味くはなかった.だが、皮が美味しく焼けたアップルパイ、以上でも以下でもなかった.この時私は、ミル=フイユの美味しさは薄く焼いたフィユタージュ生地とクレーム・パティシェールの組み合わせにあると確信した.
 ミル=フイユの美味しさはあまりにはかない.
 作ってから3時間が美味しさを保つ限界であろうか.
 それだけに本当に良く出来たミル=フイユに出会った時の喜びはこのうえない.だが菓子屋の店頭に並んだ時にはすでにその命を終えていることがほとんどだ.たとえ、最高の材料、技術、配慮がなされていたとしてもである.それでも私は美味しいミル=フイユに出会いたいと切に思う.

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