MOUSSE AUX FRAISES ムース・オ・フレーズ

 今年(2001年)はいちごが美味しい.ハウス栽培でも外の気温と関係があるのだろうか.今年の冬は久々に寒くて冬らしい冬だ.
 日本人が「ケーキ」という言葉でまず頭に思い浮かべるのが「いちごのショートケーキ」だ.特に、ある世代までは、「生クリームのいちごのショートケーキ」は子供達の憧れだった.それが丸ごとホールでお誕生日やクリスマスに食卓に上る事は至上の喜びだった.「デコレーションケーキ」よりワンランク上なのだ.家庭で食べる買ってきたホールのケーキに「ショートケーキ」か「デコレーションケーキ」の2つしかなかったいにしえの話である.
 「ムース」という言葉の響きにも独特なものを感じたものだ.そう、バヴァロワではなく.かつて、ゼラチンで固めたお菓子には「ゼリー」と「バヴァロワ」の2つの分類しかなかった時代があった.(本当か?)そこに彗星のごとく現れたのが、「ムース」である.ムースにはバヴァロワをスプーンですくい取る時のあの、シュッポン、という感じがない.バヴァロワはスプーンですくう時、本体から離れる事をあくまで拒否しているかのようだ.それに比べてムースはあっさりとスプーンにのっかる.
 むろん、これはいにしえの話である.ムースやバヴァロワについての本質的な話ではない.日本的、私的ムース、バヴァロワ観である.

 いちごが好きでムースが好きな日本人には「いちごのムース」はこたえられない.
 いちごには春を感じさせる力がある.(路地栽培のいちごの旬は5月、どちらかと言えば初夏なのだが)クリスマス前に店頭に姿を見せ始め、年が明け、2月から3月になるとその美味しさを増し、5月には姿を消す.
 だから、春を感じるといちごのものを何か作ってみたくなる.昨年、一昨年と、いちごは最悪だった.甘味も酸味も香りもなく、どうがんばってもマトモなお菓子にならなかったのだ.もういちごを使ったものは自分のメニューから外そうと思っていた.日本のフレッシュのいちごはもはや使い物にならないので輸入の冷凍ものでしか作らない、という友人もいた.
 いちごの品種はほぼ10年で世代交代をくり返しているらしい.ここしばらく、「女峰」と「とよのか」が大きなシェアを占めていたが、そろそろ交代の時期らしい.そう言えば、去年あたりから、見なれない品種を見かける事が多くなってきた.新しい品種の味の傾向は「甘い」「酸味控えめ」だそうで、これはお菓子作りにはあまり歓迎される事ではない.特にムースとなるとレモンでは絶対いちご本来の酸味を補う事ができないからだ.今のところ「美味しい女峰」が一番だと思う.

 あんまり「ムース・オ・フレーズの話」になっていないので困ってしまった.
 とにかく美味しいいちごのムースを作るには、美味しい、香り高いいちごを見つける努力を惜しまない事だ(間違っても、これは美味しくないからムースにでもしちゃえ、なんて思わない事.そんな事をするとお金と手間をかけて不味いものの量を増やす事になる).そしていちごの持つかわいらしい、可憐な雰囲気が作ったアントルメに表現されるともう、言う事はない.
 ここに載せたルセットで使っているムラングはムラング・イタリエンヌではない.これについては賛否あると思うが、酸味のあるムースでは私はフランセーズを使う事が多い.味の切れ味はそれ程劣らないし「家庭で」というカッコ付きであるならば許される範囲だと思っている.
 このムースはプチガトーに仕上げても良いしシャルロットに仕上げても良い.ただし、ムースとビスキュイの量のバランスに注意が必要である.

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