Yの悲劇
ーー免許への道ーー
| ひとは幸福のさなかにある時それに気付かない.しかし不幸はある日突然訪れ、ひとをその渦の中に巻き込む.
次の誕生日あたり、運転免許の更新かな、と久しぶりに免許証を見る. こうして私は立派な運転免許失効者、無免許になったのである. |
| 運転免許センターで免許をとるということはどういうことなのか、関係者に尋ねてみる. 「みんな、苦労してるよ、仮免で7、8回はざらだよ」 ドヨヨヨ〜〜〜ンとした気分が私を支配する. 急に自信が無くなる.取りあえず免許関係の本を買ってみる. |
| 失効が発覚してからはじめて試験を受ける日の都合がついた. まずは学科試験である.50問のうち、45問の正解、90点で合格である.教本を読み、練習問題もいくつかやったのだが、この時点での私の実力は90点すれすれ、やや不安を抱えての受験である.でもまあ、なんとかなるだろうと、タカをくくっていた.試験を終えた時の感触は、これはヤバい、であった. 結果は88点.落ちてしまった. 学生時代、教習所に通っていた時は、学科で落ちるなんて信じられない、どんな、バカが落ちるのだろうと思っていたのだが、こんなバカが落ちるのだとわかった. |
| 今回は満を持しての学科の受験である.落ちるはずがない. 受験番号は95番、あった. これで午後の技能を通れば、はれて仮免だ. 甘かった. 技能試験の待ち合い室には「常連さん」がたむろしている. 私の前に乗ったのは一緒に学科を受けた失効組のお姉さんだ. 私の番だ. クラッチを切り過ぎる(そう、自分の車がミッションなものでオートマ限定にできないのです)、安全確認全然ダメ、徐行は10キロ以下、25キロ出てましたよ、基本からやり直しなさい、だとさ. 無事故、無違反の失効したゴールド免許はここでは何の価値も持たないのであった. |
| この年になるまで、数々の経験を重ね、色々な試練も受け、たいていのことにはそうそう動じないと思っていたのであるが、あの狭いコースを走るというだけのことにあれ程までに緊張し、動揺している自分を見ることは新たな驚きである.
さて、今日はどうなるのか. 前回と同じ教官である.一見、人当たりはいいのだが. 「Yさん、前回とは別人のようにうまく出来ていました.が、結論から申し上げますと、もう一度来て下さい.車線変更をきっちりやること、左巻き込みの確認は、ハンドルを切る前にやって下さい、大丈夫、ここでとれますよ」 待ち合い室に戻ると、常連が、「2回目で完走できたら大したもんだよ」なんて、おだててくれる.私もその気になって、よし、3回目は絶対合格だ、と確信する. 一条の光が射した. |
|
ここでは、日頃の行動半径と交友関係からは決して出会わないような人たちと巡り会う.初対面の人間から、「飲酒運転ですか」なんて聞かれたりする非日常の世界である. 「ゴールドだったんだよな」 いかに最短距離で免許取消しになったのかを自慢げに話す「現役暴走族」のお兄さん. 隣で行われる「うっかり失効」の講習を恨めし気に見る「電気屋」. 待っている間にも時たま合格者が出る. だが、今日で仮免取得だ. 教官が待ち合い室に来る.嫌な予感.どこの教習所にも一人はいる、威圧的な態度をとるタイプだ. ゴール地点に戻った時には意気消沈していた.こりゃダメだ. 自信と確信はもろくも打ち砕かれ、気がつけば私も「常連」の輪の中にすっかり溶け込んでいた. |
| クラッチ対策、徐行対策は万全だ. 今日通らなくていつ通るというのだ.今日の試験は私のためにあるのだ. 全てうまくいった.流れるような運転である.芸術的とさえ言える.2ケ所ばかり安全確認を忘れたような気がしたが、他は完璧だ. 「Yさん、徐行、25キロ出てたよ.メーター、ちゃんとみてた?」 その通りだった.私は隣のメーターを見ていた. |
| 教官のアドヴァイスは小出しにされる. だが、前回までですべての要素は出尽くした.後はそれを実践するのみだ. 思えば苦しい日々である.建て前の遵法運転を全面的に受け入れ、教習所的免許センター的価値観の前に全面降伏し、時に国家権力におもねり、あいそ笑いを浮かべるのである. 不思議に気持ちは穏やかである. 「回数に不足はない、皆のもの、私が通っても妬むでないぞ」 財津一郎そっくりの教官である. 長いトンネルの向こうにうっすらと出口らしきものが見えた. |
| 仮免許が交付された. 建て前は5日以上10時間以上の路上練習である. しかしこんなに沢山遵法運転をされたら、近辺の人はたまったものではないだろう.1日だけ路上を走ることにする. 配偶者がニヤニヤしながら運転教本を見て嬉しそうに「仮免許練習中」のカードを作っている. 自宅から少し離れたところまで行って、仮免の札をつけ、運転をかわる. 「遵法運転の日」というのを作り、全警察官を各交差点、道路に配置して取り締まったらどうだろう.日本全国の交通が大混乱に陥り、税収は大幅アップすること間違い無しである. |
| 仮免学科の屈辱は忘れない. 何があろうとも本免学科は一発で通らねばならない. 練習問題をやってみる.96〜97点のレベルを維持できている.まず大丈夫だ. 自分で辛く見積もっても94点、まず合格は間違いない. 午後は技能試験だ. 試験が始まる.車は2台.1台は仮免を通してくれた財津一郎だ.もう1台は厳しいと評判の教官である.私は後者だ.だが相手が誰であろうと実力があれば通るのだ. コースはそれ程難しくない.運悪くややこしい状況に巻き込まれなければ、何とかなるのではないかという感じだ. またしても徐行に合格の道を阻まれてしまった. |
| 前回の教官がいったことが不合格の理由の全てであるならば、今回は合格できる.だが油断はならない.教官は、小出しにしか教えないことを私は知っているのだ.
前回とは別の教官だが、これまた厳しいと評判の教官である. ゴールに戻る. 終わった. |
| 路上試験が終わると合格者が集められ、免許交付のための説明が行われる.合格者達は丁重に迎えられ、「おめでとうございます」「御苦労さまでした」を連発される.だが、この場で免許を交付されるのは大特、けん引などで、普通免許には取得者講習と応急処置講習と言うのがあり、近くの教習所で受講した証明をもらい、それを持って警察署ではじめて交付となる.
私の前に合格した人たちの話ではこの取得者講習というのが予約がなかなかとれないということで、9月ごろまで予約が入っているという.取りあえず、家に帰り、近くの教習所に電話する. 取得者講習というのは、高速教習と応急処置講習である. 25日、取得者講習の証明を持って警察へ. 免許失効発覚から1ヶ月、嵐のように過ぎた日々であった. 免許取得までにかかった費用 受験・交付料 36450円 |
・・・完・・・
|
このサイトを先に知っていれば1、2度免許センター通いを節約できたかも知れない |