アニョー・パスカルの型

 何年か前から、フランスの地方菓子が脚光を浴びている。
 カヌレ、クイニーアマン、ガレットブルトンヌ等々。
 70年代の前半のヌーベル・キュイジーヌの勃興に少し遅れて、というか連動して始まったヌーベル・パティスリーは90年代に入って閉塞状況にあったように思う。行きつくところまで行ったパティスリーは一方で地方菓子、伝統菓子へと回帰してゆき、また他方で、チョコレート、バター、砂糖、塩などの素材の厳選へと進んでいく。
 地方、伝統への回帰は一つ文化が行きつくところまで行って壁に突き当たったとき必ず起こるものであるし、素材の見直し、洗い出しも同様である。ごくごく一般的なことである。

 確かにそういう大きな流れがあるにはあったが、実のところこういった傾向はごく一部の先端を行くパティシエだけであったとも言える。フランスのパティスリーを席巻するところまで行っていたかどうか、ちょっと確信をもてずにいる。広大なすそ野を持つフランスに於いては、俯瞰的に見れば流行などないにひとしいのかもしれない。そういう動きは、もちろん大きなうねりの中で影響力を持ち、業界全体を動かしていくことに間違いはないが。
 一方、日本ではフランス菓子をはじめとする洋菓子のベースのすそ野が小さいため、新しいものが導入されるとそれ一色になってしまう。チーズケーキに始まり、ティラミス、クレーム・ブリュレなどが代表格である。
そして何故か日本の田舎町のお菓子教室でもフランスの地方菓子が作られるようになるのだ。

 といったごたくはごたくとして、先日アニョー・パスカルの型を買った。子羊の形をしたパック(復活祭)のお菓子の焼き型だ。素焼きの素朴な焼き型で、現地ではそれほどの値段でもないのだろうが通販で数千円、送料なども含めるとなかなかの値段である。この品質、というよりこういう「格」の品物に対して数千円の値段はいかがなものかとも思うのだが致し方ない。
 で、最初に型を手にとって思ったのは「おお、峠の釜めし」。
 素焼きの内側に茶色の上薬がかけてあり、色合いがそっくりなのだ。素朴さという点ではフランスの方が数段勝っている。
 でも峠の釜めし、中味が入って900円なんだよなあ。
 こういうフォークロアな製品を特に思い入れもなく持ってしまった自分自身に居心地の悪さを感じてしまった。

2003/06/05